「すっごくかわいいよ。」
ベッドの上でそう言う。
脇の時計に目をやる。
ディスプレイには『23:13』
さっき時計を見てから、30分経った。
「・・・ちゃん。」
渚が小さな声を出す。
「なぁに?渚。」
私の目に、どこか戸惑った彼が映る。
「これ、外してよ。」
頭上でくくられた手を動かしながら、彼が乞う。
「ダメ。」
そう、一言告げる。
「・・・。」
どうやら、諦めてくれたようだ。
かれこれ20分ほど、私たちはこのやり取りを繰り返していた。
「渚のそういうとこ、好きだよ。」
これから何をされるかわかっているのだろう。
それでも、暫くの間は解放を願う彼の顔が、声が、可愛らしい。
「もっと可愛いところ見せて、渚」
彼に手を伸ばす。
「っ・・・。」
体をぴくりと震わせ、目を閉じる。
その仕草がいじらしくて、たまらない。
「私に、渚を全部頂戴。」
「ちゃん・・・僕は」
彼が何かを言い終わる前に、そっと舌を這わせる。
鎖骨の上から耳に向かって、首筋を舐める。
こわばる身体、漏れる吐息、すべてが私を満たしていく。
片手を腰に添えながら、彼の上半身を愛撫する。
手首を縛っただけだから、彼がその気になれば、私なんて簡単に押し返せる。
なのに、言葉以外の抵抗を見せない。
きっと彼は、私を傷付けないようにしているのだ。
それとも、本心では続きを求めているのか。
どちらでも構わない。
優しい渚も、恥ずかしがる渚も、大好きだから。
彼の鎖骨に唇を寄せ、そっと、噛み付くフリをする。
「ちゃん、そこは・・ダメ。」
「どうして?」
答えなんてわかっているのに、わざと尋ねる。
「そこだと・・・見えちゃうから。」
ああ、本当に可愛い。
「見られると困るの?」
どうしても、意地悪をしたくなる。
「まこちゃんに、気づかれちゃう・・」
もっと、もっと
「真琴くんは、意地悪言わないでしょう?」
ほら、はやく。
「そうかもしれないけど・・・・僕が、恥ずかしい。」
完璧な答え。
「そっか。渚が泳ぐのに困ることはしないよ。」
ホッとした彼の顔。
「だったら、困らないところにするね。」
彼の太ももに視線を移す。
ちょうど下着の裾辺り。
ここならいいでしょう?と訊かずに口付ける。
「痛いよ、ちゃん・・」
「いい痕ついたよ、渚。」
きれいな色、と言いながら、私は手の場所を変える。
下着の上から、足の付根を撫でる。
ビクッと反応する腹筋。
じわりと、色の変わった生地。
そこを中心に、膨張したソレをさする。
「どんどん固くなってくる。」
「っ・・・・ちゃん・・」
彼は吐息を漏らしながら、私の名前を呼ぶ。
「ねぇ、直接触っても、いい?」
「!」
「だめ?」
「なんで、そんなこと訊くの・・?」
「渚が困ることは、したくないから。」
彼は一呼吸おいて、ちゃんがそうしたいなら、といった。
「じゃあ、脱がすね。」
ボクサーパンツを下ろすと同時に、抑えるものの無くなったソレが現れる。
仰向けだというのに、少し天井の方を向いている。
私はそっと手を添え、渚を刺激し始めた。
滲み出た液体を伸ばすように、先端を撫でる。
そのたびに、ビクビクと震える彼の身体。
「気持ちいい?」
今のところはまだ、答えを期待していない。
「ぬるぬるしてるでしょ。これ、全部渚のだよ。」
手は、ゆっくりと動かし続ける。
「っ・・・あ・・・・。」
彼の声が漏れる。
「渚の声、もっと聞かせて?」
手を離さないようにしながら、彼に口付ける。
舌を絡ませ、唇を吸い、すでに息の乱れた彼から、酸素を奪う。
必死な様子が、すごくかわいい。
「渚の、さっきよりも大きくなってる。」
彼も、わかっていたのだろう。
横を向いて、息を殺している。
「私の口に入りきるかなぁ。」
彼の身体が、ビクリと震えた。
「言葉だけで、感じちゃったの?」
「そんなこと、」
ない、と言い切る前に、また彼の唇に噛み付く。
彼の顔を覗き込む。
「私は、素直な渚が好き。」
本当は、どんな渚も好き。
意地悪でも、素直じゃなくても。
嘘はついてない。ずるいかもしれないけど。
「渚は、いま何を感じて、何を考えてるの?」
尋ねながら、手の動きを早める。
先端から、上下に擦る。
リズムを崩さないように、優しく。
そうするうちに、渚の声がだんだんとはっきりしてくる。
「もう、声、抑えるのやめたの?」
「ぅあ・・・・ちがっ・・・」
渚のソレは、右手の中ではちきれそうになっている。
私は、手の速度を落とす。
「なぎさは、どうしたい?」
わかるでしょ、なんて答えるのが正解か。
きかせて?
「っ・・・・イきたい。」
彼の目を見る。
「イかせて、ちゃん・・・。」
よく言えました。
「いいよ、渚。イかせてあげる。」
手の速度を上げる。
どんどん溢れてくる透明な粘液。
渚は喘ぎ続けている。
その感覚を与えているのが私。
そう思うと、ゾクッとする。
「もう・・・でる・・・っ」
彼が達するときでも、手は離さない。
右手の中で、ひときわ大きくなったかと思えば、次の瞬間、
彼はビクビクと痙攣し、欲を吐き出した。
浅く、長く、乱れた呼吸が、緊張が解けたことをあらわす。
仰向けだったせいで、精液は彼の胸に飛び散っている。
乱れた呼吸と汗と白濁。
それはひどく、扇情的だった。
「たくさん出たね。」
お決まりの台詞。
いつも、彼は返事をくれない。
だから、何回でも言う。
「今日も、すごくかわいかった。
大好きだよ、渚。」
彼の額に口付け、拘束を解く。
少し残った痕すら、愛しい。
彼が私のものだという証。
彼の身体を拭き、隣に寝転ぶ。
さっきまで手首にあった紐を見ながら、ふと思った。
きっと渚には、この深い緑よりも、淡い色のほうが似合う。